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政府が「誤情報」常時監視 6月にも閣議決定へ 感染症対策の一環で 言論統制の恐れも
政府が感染症対策の名のもとに「偽・誤情報」のモニタリング(監視)を行う方針であることが、4月24日公表された「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の改定案で明らかとなった。未知の感染症が発生したかどうかに関係なく、平時から「偽・誤情報」の監視を実施する。SNS等のプラットフォーム(PF)事業者に削除等の対処を要請することも想定している。
これまで、政府関係機関が「偽・誤情報」を監視し、PF事業者に対処を要請するための法的根拠はなかった。今回それを明記する政府行動計画は、新型インフルエンザ等対策特別措置法6条を根拠とする文書(法定計画)。正式に決定されれば、政府が「偽・誤情報」の監視や対処要請を実施する法的根拠となりうる。国会の審議や承認は必須とされておらず、岸田内閣は6月中に閣議決定し、実施する方針だ。
罰則などの強制力はないが、対策の実施方法によっては表現・言論の自由に対する侵害や萎縮をもたらすおそれがある。
政府はコロナ禍の緊急事態宣言の時から、明文の法的根拠や国民への説明もないまま、PF事業者などと協力し、偽情報対策を事実上進めてきた。ただ、大手PR会社と取り組んできた対策の実施内容については、情報公開を拒んでいる。
偽情報対策を進めるにあたり、実態把握や検証が可能になるよう、実施状況の透明化が求められる。
2週間のパブコメを経て決定へ 偽・誤情報の監視は常時実施
政府は4月24日、コロナ禍での課題を踏まえ、新型インフルエンザ等対策政府行動計画の全面改定案を、感染症専門家ら15人で構成される有識者会議「新型インフルエンザ等対策推進会議」に提示した。
223ページに上る分量だが、事前に意見書を出したのは1人(全国知事会副会長)だけで、即日了承された。偽情報対策について議論がなされたかは不明だが、議事録は後日公開される。
同日から2週間(5月7日午後6時まで)、パブリックコメント(国民や事業者からの意見提出)を受け付けた後、5月の次回会議で最終案をとりまとめる予定だ(改定スケジュール資料)。
政府行動計画改定案は「準備期」「初動期」「対応期」の3つの段階に区分している。このうち「偽・誤情報」対策はリスクコミュニケーションの一環として、いずれの段階でも行うものとして位置付けられている。
感染症危機では様々な情報が錯綜し、不安、偏見・差別等が発生しやすく、偽・誤情報が流布するおそれがあるとし、平時(準備期)から、各種媒体を活用した偽・誤情報に関する啓発のほか、偽・誤情報の拡散状況等のモニタリングも行い、「科学的知見等に基づいた情報を繰り返し提供・共有する等、国民等が正しい情報を円滑に入手できるよう、適切に対処する」と記されている。
監視の対象は「例えば、ワクチン接種や治療薬・治療法に関する科学的根拠が不確かな情報等」と例示されているが、範囲を限定しているわけではない。
実施主体は、内閣感染症危機管理統括庁(昨年9月発足)や厚生労働省が想定されているが、他の「関係省庁」が実施する余地も残している(改定案1-1-3、2-3、3-1-3)。
PF事業者への削除要請も排除せず
同案の「初動期」と「対応期」では、「偽・誤情報対策」として「国はSNS等のプラットフォーム事業者が行う取組に対して必要な要請や協力等を行う」と記された。この文言は「準備期」には入っていない。
ただ、政府行動計画改定案を担当している内閣感染症危機管理統括庁の職員は、筆者の問い合わせに対し「『これから初動期です』という宣言や手続きがなされるわけではない」と説明した。国内外で感染症の発生疑いが確認された時が「初動期」。「準備期」から「初動期」への移行は明確でなく、重なり合う面もあるとみられ、PF事業者への要請が常態的に行われる可能性がある。
同職員は「要請の内容は限定しておらず、『削除』の要請を行う可能性も排除されていない」と認めた。
実施主体は、統括庁、総務省、法務省、厚生労働省のほか、ここでも「関係省庁」と記され、どの行政機関も実施できる余地を残している(改定案2-3、3-1-3)。
また、「偽・誤情報」については「いわゆるフェイクニュースや真偽不明の誤った情報等」と記しているだけで、明確な定義や判断基準を示していない。
政府は、改定案の閣議決定後にすみやかにガイドライン(現行版は2018年改定)も全面改定する方針で、そこでより具体的な対処方針が示される可能性がある。
仮に、政府や関係機関、または委託された専門家等が「偽・誤情報」とみなしたものについて、PF事業者に削除や流通阻止等を要請することになれば、表現の自由への不当な制約になるおそれがある。
偽情報問題に高まる関心 政府主導で情報統制リスクも
偽・誤情報問題は世界的に関心が高まる一方、対処の仕方によっては表現の自由の制約や言論統制につながるリスクも指摘されている。
今年初め世界経済フォーラムが公表した「グローバルリスク報告書2024年版」は、偽情報問題を今後2年間の最大のリスクと指摘した上で、「国内でのプロパガンダや検閲のリスクも高まる」「政府は『真実』と判断する内容に基づいて情報を統制する権限をますます強める可能性がある」と警鐘を鳴らした。
国連も「事実や出来事に対する誤った解釈などの批判的発言」なども表現の自由に含まれ、不当に侵害されてはならないと釘をさし、全体として慎重な対応を求める内容の提言をまとめている。
一方、日本では、コロナ禍前の2019年に、総務省が有識者の研究会で偽情報問題への対応を検討。一旦は、基本的に政府は前に出ず、民間のファクトチェック活動などの自主的な取り組みに委ねる方針を示していた(報告書)。
ところが、コロナ禍で緊急事態宣言が繰り返される中、明文の法的根拠がないまま、PF事業者などと協力して政府主導の偽情報対策が始まっていた(YouTubeブログ)。
厚労省も、民間業者や医療系インフルエンサーの協力も得て、偽情報対策を行ってきた。ただ、詳細は明らかにされていない(=厚労省、偽情報対策の報告書2700頁超を不開示 ワクチン接種促進「世論形成」目的で3年間実施)。
岸田首相、偽情報対策にたびたび言及
コロナ禍が落ち着いた後も、岸田文雄内閣は、法整備によらずに官邸主導の偽情報対策を模索している。
防衛三文書改定の際、偽情報対策を初めて明記し(2022年12月、国家安全保障戦略)、内閣官房を中心に体制整備を行うと発表(2023年4月、松野官房長官)。外務省などが福島原発ALPS処理水放出に関する海外発の真偽不明情報に対処した(NHK)。
社会的関心の高まりもあり、岸田首相もこの問題にたびたび言及。「偽・誤情報対策に正面から取り組みます」とXに投稿するなど、やや前のめりになっている。今月の国際会議では、韓国の総選挙を控えて偽情報の取り締まりや法整備を訴えた尹錫悦大統領と歩調をあわせ、国際連携に意欲を示した(関連=民主主義サミット声明が偽情報法規制に言及 背後に韓国大統領の怒り?)。
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弁護士
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。