http://hara.livedoor.biz/archives/52323401.html
4月30日にYouTubeにアップした動画につきまして、重要なテーマですので内容をより深く掘り下げ加筆修正して記事にしました。まだご覧になっていない方のため、以下の内容を短縮したものになりますが、一番下に埋め込みます。
4月28日にHara Blogでお伝えしましたが(こちら)、プーチン大統領は国連のグテーレス事務総長と会談した際に、以下の点からウクライナでの特別軍事作戦が合法であると述べています。
1.国連憲章第七章51条(自衛権を規定した条項)
2.コソボ紛争における国際司法裁判所の判例
上記2点がどういうことなのかを見てみます。
1つ目。国連憲章第七章51条の条文は、次の通りです:
【第51条〔自衛権〕
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとる措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。】
疑問点として、
・国連に国家として承認され加盟しているのではないドネツクとルガンスク人民共和国について集団的自衛権を発動できるのか?
・攻撃されている地点を遥かに超えてウクライナ全土を攻撃することが自衛なのか?
このようなことが、挙げられます。特に「自衛権」の範囲が国連憲章上どのようになっているのかは日本人としても関心を持つところです。
プーチンはここで、コソボ紛争における国際司法裁判所(オランダのハーグにある、国連の裁判所)の判例を引き合いに出しています。
プーチンが「自分自身でじっくり読んだ」と言うコソボ紛争の判決文ですが、実際には2010年7月26日に出された「勧告的意見」というものです。122項にこう結論づけられています。
【以上、裁判所は、2008年2月17日の独立宣言の採択は、一般国際法、安全保障理事会決議1244(1999)又は憲法枠組に違反していなかったと結論した。したがって、当該宣言の採択は適用可能ないかなる国際法規にも違反していなかった。】
という訳で、コソボの独立は国際法規に違反しない、つまり合法と認められています。
そして恐ろしいことにプーチン曰く、これによれば「独立の自己決定権を行使するにあたり、特定のあるいはどの領土の国も、その国の中央当局に主権を宣言する許可を申請する義務はない」というのです(4/28記事)。
そこで、勧告書の詳細をもう少し読んでみます。
【コソボに関する一方的独立宣言の国際法適合性に関する国際司法裁判所の勧告的意見】
この文書の「Ⅳ.独立宣言は国際法に適合しているかどうかという問題」の「A.一般国際法」にある79~84項で、このようなケースでの過去の事例が検証されています。
まず、80項。よく言われるところの「領土保全の原則」・・・武力による国境の変更はイケマセンということですが、これは国家間についてだけなのですと。ビックリです。
つまり、「他国に侵攻して国境線を変える」のはイケマセンが「独立による国境変更」を国際法は妨げていない。
一言で言うと、ユーゴ側が「一方的独立宣言の禁止は、領土保全の原則に黙示的に含まれている、と主張」したんだけど「領土保全の原則の範囲は、国家間の関係の分野に留められる」と国際裁判所に却下された訳です。
そして、82項。民族自決の権利で独立が認められるかどうか。これについては、ざっくりまとめると「色んなケースで色んな人が色んなことを言っている」と。統一見解がなく、バラバラであると。頼りないなぁ~
で、どうなるの?って話なんですが。83項と84項に結論が述べられています。
えーーーーーっ?!
「裁判所は、本件においてこれらの問題を解決する必要はないと考える」
マジかっ? カンベンしてくれぇ~
「その論点は、総会によって提出された問題の範囲を超えている」
おいおいおい、お手上げってか?
「既に与えられた理由のために、裁判所は、一般国際法は独立宣言の禁止に適用可能な法を含んではいないと考える」
ヤバい、ヤバすぎる。国際司法裁判所は「属している国家の承認なく一方的に独立を宣言すること」は国際法上禁じられていないと結論づけています。
という訳で、プーチン曰く「ドネツクとルガンスクの独立は合法」。そして両国を承認し条約を締結した上でて集団的自衛権を行使しウクライナを攻撃したことも合法。コソボも未だに国連に加盟できていません。
では、ドンバスの人民共和国の境界を超えたウクライナ全域での攻撃についてはどうでしょうか? これも、コソボ紛争時の、78日間で爆撃機のべ3万機以上とされるユーゴスラビア全域へのNATO空爆が連想されます。自称独立国のコソボを擁護し「人道的理由」を建前に、コソボ領地エリアの防衛にとどまらず広範囲で民間人に多数の死傷者を出すおびただしい空爆を行いました。「自衛権」について言えば、守ろうとしている国を攻撃している相手国を攻撃するのは、部分的であるか全体的であるかに関わらず自衛と言える・・・そのように見えます。ましてロシアは今回、軍事施設(軍が使っている民間施設を含む)だけが攻撃対象と主張しています。
NATOはじめ西側諸国は、ミシェロヴィッチ大統領を武力でねじ伏せ、最終的にはコソボ独立つまり国境線の変更を国際社会の多くの国に認めさせる状況に導きました。これが合法化される西側の論理に乗っ取り、今回のウクライナでの作戦を行っているというのが、プーチン大統領が私たちに突き付けているものです。
この主張が国際社会なりメディアなりで議論され反論されている場面は、私の知る限りありません。